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[住宅関連企業]の基礎知識2024
いつの時代も学生に人気のハウスメーカー。抱える課題は深刻?
私たちの日々の生活になくてはならない「衣・食・住」。これらに関わる産業はいつまでも尽きることがない需要に支えられていると言われてきました。その中でも「住」については多くの方にとって特別な存在です。
建築を学ぶ学生に「なぜ建築を勉強しようと思ったのか」を問うと、必ず聞かれるのが「幼い頃に実家が新築されて家族全員で大喜びした記憶」や、「身近に存在した大工さんが家を建てているさまを見て、その姿に憧れた」、「模型を作ったり、間取りを考えたりするうちに原寸大の家を自分で造ってみたいと思うようになった」などのエピソードです。思わず情景が浮かんで来ますよね。
我が国における住宅産業の発展は、1959年(昭和34年)に大和ハウス工業が、日本で最初のプレハブ住宅(工業化住宅)といわれるミゼットハウスを世に送り出したところからスタートしています。大和ハウス工業創業者の石橋信夫は、戦時中に捕虜としてソヴィエト連邦に連行され、シベリアの強制収容所にて、極寒の地で過酷な労働の日々を送った経験から、帰国後に生活する上での「衣・食・住」三要素の「住」の重要性を認識し、どんな時でも「すぐに建てられる丈夫な住宅」を普及させるべく、事業を開始したのでありました。
戦後の高度経済成長時代が始まった当時でもサラリーマンにとって、「自宅を新築すること」は高嶺の花でしたが、「ミゼットハウス」は当時の建築の常識では考えられない3時間という速さで建てられることと、11万円程度に抑えた価格設定で爆発的にヒットしました。
ところが現状は、ここ数年、国内住宅市場は低迷が続いています。国土交通省「住宅着工統計調査」によると、2023年度の新設住宅着工戸数は2022年度比7%減の80万176戸と2年連続で減少しており、うち戸建ては10%減の35万3,237戸でした。
下図が「新設住宅着工戸数の推移」グラフです。
出典:一般社団法人日本建設業連合会 建設業デジタルハンドブック
2023年度の着工戸数減少の原因として、建設資材費の高止まりや物価高の影響で、消費者の購買意欲が低下したことが言われています。現実に住宅販売価格は上昇しており、資材価格だけではなく、労務費や地価高騰が販売価格に転嫁されているのです。巷では食品はじめ多くの生活必需品が値上がりしていますので、特に金額が大きい住宅への出費を控える傾向が強まっているといって良いでしょう。
今後の新設住宅着工戸数については、「株式会社野村総合研究所」が、人口減少や高齢化により、2030年度には77万戸、2040年度には58万戸に減少していくとの予測をしています。
この件の詳細は、2024年9月9日掲載の総合資格naviコラム記事「2040年度の住宅市場展望!「新設住宅着工数」はどう変わるか?【住宅業界NEWS】」で解説しておりますので、ぜひご確認ください。
2040年度の住宅市場展望!「新設住宅着工数」はどう変わるか?【住宅業界NEWS】
ハウスメーカーは事業領域の拡大と多角化で将来を見据えている
新築住宅の売上は大手10社でもシェアは3割程度に過ぎない特殊な市場です。全国展開している大手ハウスメーカーは魅力ある商品づくりを徹底しており、特に近年は地震に対する耐震・制振・免震といった構造性能から、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)をはじめ、環境性能向上に向かっています。
それでも販売戸数では、より安価な「土地付き分譲住宅」を提供するパワービルダーや地域密着の工務店が強く、高級志向の輸入住宅会社や地域地盤の注文住宅ビルダーとも激しい競争をしていかなければなりません。
このような動きの中で、2000年代以降、大手ハウスメーカー各社が舵を切ったのは、事業領域の拡大と多角化です。
大和ハウス工業は、2001年大和団地を吸収合併。2006年にはグループ上場3社(ダイワラクダ工業(現:デザインアーク)、大和工商リース(現:大和リース)、大和物流)を完全子会社化しました。2013年には準大手ゼネコンのフジタと、マンション開発のコスモスイニシアを子会社化。2015年には既に傘下としていた、東証一部の大和小田急建設を、フジタに吸収合併するかたちで完全子会社化しました。2023年度の連結売上は5兆2,029億円と建設業界トップを継続していますが、売上に占める戸建て住宅の割合は18%に過ぎず、売上比3割を超える、賃貸住宅やマンションに加えて、商業施設23%、物流施設など事業施設が25%とゼネコン領域の売上が拡大しています。また戸建て住宅の利益は8割から9割を海外で稼いでいる状況です。
大手2位の積水ハウスも売上高3兆1,072億のうち戸建て住宅は15%となり、賃貸住宅37%となっています。中堅ゼネコンの鴻池組を傘下に、都市開発案件に注力しています。海外事業は2008年のオーストラリアを皮切りに、米国、中国、シンガポールと積極展開を図り、特に米国住宅会社をM&Aで買収しています。2024年1月には、米国の住宅会社M.D.C.ホールディングスを約49億ドル(約7200億円)で買収して大いに話題となりました。
大手ハウスメーカーの業界再編としては、2020年1月に、パナソニック株式会社とトヨタ自動車株式会社の折半出資により、プライム ライフ テクノロジーズ株式会社が設立され、総合商社の三井物産も株主参加しました。同社は、パナソニックホームズ、トヨタホーム、ミサワホーム、パナソニック建設エンジニアリング、松村組の5社の持ち株会社となっています。
パワービルダーでは、2013年に、一建設、飯田産業、東栄住宅、タクトホーム、アーネストワン、アイディホームの6社が経営統合して設立した共同持株会社「飯田グループホールディングス」が設立されました。同社は2019年にシステムキッチンなどの住宅機器メーカーである、ファーストプラスの株式を取得し子会社化しています。
飯田グループホールディングスとしては2023年度の戸建て住宅販売戸数が40,355戸と業界1位となり、2位一条工務店(16,681棟)や3位オープンハウス(13,388戸)を大きく引き離しています。
大手ハウスメーカーは新卒採用に変化が見られる。
大手ハウスメーカーの新卒採用は景気動向に左右される面があり、2008年9月リーマンショック直後は、採用数が激減したほか、建設系学科の学生も営業職採用による入職が多くなっていました。
その後の景気回復で建築学生は主に希望する設計職で採用されていましたが、近年は技術系総合職採用として、施工部門(住宅・建築)や設備・生産部門、デベロッパー部門など、総合建設業と同様の採用・配属とする企業が増えています。
業界研究、企業研究では経営戦略や商品力の比較に加えて、採用後のキャリアパスや資格取得支援など、入社後の働きやすさや人材育成方針を知ることがますます重要なポイントになっていくでしょう。
新たな課題は「脱炭素社会」への対応と「建設DX推進」
国土交通省では2050年の脱炭素社会実現に向けて、2030年には、新築の住宅・建築物について、ZEH・ZEB基準の水準で省エネ性能を確保することとしています。また再エネ性能では、新築戸建住宅の6割において太陽光発電設備を導入するとしており、これらを義務化する動きになっていますので、住宅関連企業全体が対応していかねばなりません。
また建設業では、2024年4月より労働時間規制が開始されました。建築現場の人手不足は年々深刻になっており、少人数で業務を効率よく進めて行くためには、建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入が不可欠となっています。
小規模現場を数多くもつ住宅業界では、中小企業規模だと、未だ導入検討が進んでいない企業も多くなっています。
システム更新は具体的な業務効率向上と導入費用のバランスが重要ですが、クラウド活用やICT機器の導入、CADからBIMへのシフト、建設用ドローンの運用などIT機器に強く、手先が器用な職人が多い企業では、急速にDX導入が進んでいく期待感があります。
(本記事は総合資格naviライターkouju64が構成しました)