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[建築設計事務所]の基礎知識
専業、兼業、組織、アトリエ……、設計事務所の形態
建築設計事務所は、建物の企画立案、設計、設計監理、工事監理など言わば建築生産のソフトの領域を業務としています。建築設計業を営むには、建築士有資格者を管理建築士とする建築士事務所として都道府県に登録する必要があります。建築事務所には、一級建築士事務所、二級建築士事務所、木造建築士事務所があり、二級建築士事務所と木造建築士事務所は、設計できる建物の規模、構造が制限されています。建設会社や工務店、ハウスメーカーの設計部門のように、施工会社が業務として設計行為を行う際も、登録の必要があります。
建築設計関連業務に特化した事務所は専業と言われ、一方ゼネコンや工務店をはじめとした企業の中の設計部門は兼業と言われます。専業には規模の大きな組織設計事務所や個人の建築家が主宰するアトリエ事務所などの形態があります。
組織設計事務所は日建設計、日本設計、三菱地所設計などが代表例で、意匠設計、構造設計、設備設計、工事監理、プロジェクトなど建築設計にかかわる一連の業務を手がけています。国内の大規模建築の多くは、組織設計事務所が設計しています。
アトリエ事務所は、建築家の理念や個性を色濃く反映した意匠を中心とする設計業務が特徴です。建築家の磯崎新氏が、1963年に丹下健三研究室(現丹下都市建築設計)を退職し、自身の事務所を設立した際、「磯崎新アトリエ」と名付けたのが、アトリエ事務所といわれるようになった始まりです。最近は、建築家個人の名前が付いた事務所でも、100人を超えるスタッフを擁する大規模組織もあります。組織設計事務所に分類される久米設計、山下設計、松田平田設計なども、もともとは個人事務所を母体として発展してきました。
アトリエ事務所の扱う案件は、個人住宅といった小規模のものが多いと言えますが、近年はアトリエ事務所が基本設計や監修を担当する形で、組織設計事務所、大手ゼネコンの設計部と協働する例が増えています。アトリエ事務所に入社しても大きな仕事ができるチャンスはあるでしょう。
なお、設計事務所として独立開業するには管理建築士を取得する必要があります。管理建築士は建築士資格を取得して3年以上の実務経験が必要ですが、アトリエ事務所はもちろん組織設計事務所で経験を積み、管理建築士を取得して独立する人も少なくありません。
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実務経験なしで建築士受験が可能に!
2020年3月1日に改正建築士法が施行され、新たな建築士資格制度がスタートしました。これまで「受験要件」だった実務経験を「免許登録要件」に変更し、設計製図試験合格後の免許登録までに満たせばよいことになりました。これにより、二級建築士試験は高校等卒業後いつでも受験でき、一級建築士試験は大学等卒業後いつでも受験できるようになります。また、学科試験合格後、4回の建築士試験のうち2回(学科試験合格年度の設計製図試験を欠席する場合は3回)について学科試験が免除されます。
幅広い知識と倫理観が求められる
設計事務所には、構造設計、設備設計、積算などそれぞれの業務に特化し、意匠系設計事務所、組織設計事務所の協力事務所として活動しているところもあります。社会情勢に応じて、より信頼性が求められるようになった分野では、構造設計一級建築士や設備設計一級建築士など一級建築士の上位資格が設けられています。
建築設計業務は一般的に、建築相談、設計契約、基本設計、実施設計、工事見積もり、工事契約支援、工事監理、竣工検査、引き渡しの流れで行われます。建築主と打ち合わせし、設計契約が成立すれば、その要望や予算、法規制など諸条件を元に基本設計を作成します。基本設計図書は、建築主の要望を具体化する重要な過程です。
実施設計は、基本設計に基づき工事費の算出に必要となる詳細な設計図を作成します。意匠設計図、構造設計図、構造計算書、設備設計図、各工事仕様書、工事費積算書、建築関係諸手続き書類などが含まれます。設計事務所が、施工者の見積もり合わせや選定を支援したり、建築主に代わって建築確認申請を行う場合もあります。
工事監理は、設計図書通りの施工が行われているかを監理します。施工計画の検討助言、施主と施工者間の調整、手続き処理、竣工時の消防署や役所などの検査立合い、建築引き渡し時の立合い、最終的な工事の確認などが具体的な業務です。
設計図書の精度が、建物の品質を左右すると言っても過言ではなく、設計事務所、設計者には美的センスに構造力学、地盤工学、生態学、歴史、法制度など幅広い知識と倫理観が求められます。さらに、大規模プロジェクトや新築の仕事が少なくなってきている近年は、設計業務だけでなく、まちづくりや地域のイベントの企画・運営などその仕事の領域が広がっています。企画力や人間力が求められる一方で、仕事のおもしろさも増していると言えるでしょう。