大手ハウスメーカーの海外展開。日本の住宅がなぜアメリカで売れるのか?【住宅業界NEWS】

なぜ積水ハウスは米大手ハウスビルダーを買収したのか?

2024年4月19日、積水ハウスが米大手ハウスビルダー、M.D.C.ホールディングス(以下、MDC社)を約49億ドル(約7500億円)で買収完了したとの報道が注目を集めました。

MDC社は50年以上に渡り、米国市場で良質な住宅を供給してきた有数の住宅販売会社です。この買収により、積水ハウスグループは米国16州で戸建住宅事業を展開する、年間供給約 15,000戸を販売するホームビルダーグループとなり、販売実績で米国5位に躍り出ることになりました。

米国へ戸建て住宅販売を展開する日本大手ハウスメーカーは、積水ハウスだけではなく、先行する住友林業をはじめ、大和ハウス工業、旭化成ホームズなど、各社が展開しています。また積水ハウスは、米国だけではなく、オーストラリアやシンガポール、英国に拠点展開をしていますが、本記事では米国市場の状況や今後の展開などをまとめてみたいと思います。

米国は新築住宅が供給不足に陥っている。まさに「成長市場」である

日本では、2023年度の新設住宅着工戸数が前期比7.0%減で、辛うじて80万戸台を維持しています。戸建てが大半を占める「持ち家」と一戸建「分譲」の合計は35.3万戸で前年度に比べて約1割減少となりました。今後も人口減少により、着工戸数は右肩下がりの傾向が続くと予想されています。

一方、米国では、住宅建設数が年150万戸を超えており、うち戸建て住宅は日本の約2倍となる年60万~70万戸で推移しています。米国住宅市場は中古住宅の売買が活発で市場全体の約8割を占めていますが、移民の流入などで人口増加が続き、住宅ローン金利が高止まりして、買い替えに伴う中古住宅の売却数が低迷。そのため市場全体では供給不足に陥って、新築住宅の建設が追い付いていない状況です。

米国では、各州行政当局が道路や水道などのインフラ整備に合わせて新築戸建ての供給量を制限してきた背景があり、ホームビルダーは日本のデベロッパー(不動産開発事業者)に近い業態になっています。

つまり新築住宅の販売には、開発権利をもつホームビルダーと組む必要があり、積水ハウスがMDC社を買収した最大の理由となっています。

また、米国では住宅建設会社の多くが、大工による昔ながらの施工スタイルで、戸建て住宅の工期が1年かかるケースも珍しくない実態となっています。そこに日本企業が続々と参入しているのは、日本国内で伸ばしてきたプレハブ技術によって競争力を発揮できると判断したからで、現地ホームビルダーから住宅建設を受注する、専門建設業者としての立ち位置になります。

米国では2×4が標準工法。日本ではプレハブ住宅が主流

米国の戸建て住宅市場は、ハリケーンが多いフロリダ州でブロック造の住宅が多い以外は、「2×4工法」を標準工法としています。そこで住宅を建設する技能労働者は「2×4工法」の技術を習得すれば、新築だけでなく、市場全体の8割を占める既存住宅の改修やリノベーションも対応しやすく、移民など賃金が安い労働力が獲得しやすい米国では、住宅生産のプレハブ化が進んでいきませんでした。

住友林業、大和ハウス、旭化成ホームズ、積水ハウスともに米国では、日本で手掛けていない「2×4工法」で戸建て住宅事業を開始しました。米国で広く普及している2×4工法であれば、資材も技能労働者も容易に現地調達できるので参入が容易であるためです。

日本では、伝統構法の「軸組工法」で大工が手作業で住宅を建ててきましたが、戦後の住宅不足問題に対応するため通商産業省(現・経済産業省)主導で工業化を推進してきた経緯があります。最初のプレハブ住宅は、1959年に発売された大和ハウス工業の「ミゼットハウス」で、翌1960年に積水ハウスが創業しています。

プレハブ住宅の最大の利点は、大幅な工期短縮とコスト削減が可能となること。日本のハウスメーカー各社は、それぞれ独自工法を開発し、大和ハウス、積水ハウスなどは軽量鉄骨造、旭化成ホームズは重量鉄骨造の住宅を主力商品として展開しており、当初、軸組工法を採用していた住友林業も、現在では独自開発の「ビックフレーム(BF)構法」が大半を占めています。

他にミサワホームの木質パネル接着工法、積水化学工業のユニット工法などもあり、日本ではさまざまな工法が乱立する特殊な市場となっています。

日本ハウスメーカー各社の米国展開

住友林業は米産木材を日本に輸出してきましたが、環境規制の強化などを見通して、2003年から米国シアトルで住宅事業を開始しました。これまでに現地企業5社を買収し、現在では16州で事業を展開しています。2023年12月期の引き渡しは約1万200戸と、日本での販売戸数約8200戸を上回っています。現在は「2×4工法」をパネル化し、製造・配送・施工までを工業化したFITP事業に力を入れており、今年に入ってノースカロライナ州に6番目の工場が完成しました。2030年に年2万3000戸の供給を目標としています。

大和ハウス工業は1980年代に一度、米国市場を撤退した後、2011年に再進出。2017年のスタンレー・マーチン社を皮切りに、3社を買収し、現在は12州で事業を展開しています。2023年度の戸建て住宅供給戸数は6568戸で、売上高は4721億円となっています。同社では2026年度に海外事業の売上高1兆円、うち米国事業で73%を目標としており、現状の3社体制で米国の供給戸数を1万戸超に引き上げる計画です。今後は部材・住宅設備など資材メーカーと関係を強化し、グループ購買の取り組みでコスト削減を図る戦略としています。

積水ハウスは、年1万戸弱を手掛けてきたMDC社の買収によって、米国での戸建て住宅供給戸数は年約1万5000戸となりました。2030年には年2万戸の供給体制を目指していますが、うち3000戸は独自工法の高級住宅「SHAWOOD(シャーウッド)」を輸出販売する計画で、2024年6月の決算発表会見で、仲井嘉浩社長は「積水ハウステクノロジーを米国で展開し、米国戸建業界のゲームチェンジャーになる」との決意表明をしています。

では、米国市場に「シャーウッド」を投入する狙いは何か?2×4工法では対応が難しい大開口・大空間を実現した高級住宅として需要が見込めると判断したためです。ただ、現地では「シャーウッド」を生産できる工場を確保できないので、当面は日本から資材を輸出して施工することになっています。

日本のハウスメーカーは米国市場を席巻できるのか?

大手ハウスメーカーにとって戸建て住宅の主戦場は、縮小する国内市場ではなく、米国などの海外市場へ移りつつあります。これまでは米国市場でオープン工法となっている、「2×4工法」の住宅販売で実績をつくってきましたが、今後は各社が得意とするプレハブ技術を持ち込むことで大幅な工期短縮とコスト削減でシェア拡大を図る戦略としています。

積水ハウスは独自商品「シャーウッド」を米国市場に投入することを決断したわけですが、かつて家電や自動車などで日本製品が米国市場を席巻した歴史を戸建て住宅で再現できるのでしょうか?

積水ハウスでは、米国で技能労働者を育成して、施工体制を整えるとともに、中古住宅市場に売却されたあとも維持管理・修繕サービスを提供していく方向性としています。「シャーウッド」の米国投入が成功すれば、今後の海外戦略に大きな影響を及ぼすだけに注目されるところです。

まとめ

住宅産業に進路を考えている学生にとって、海外展開に目を向けることは重要なポイントです。とかく国内の多角化経営に注目しがちですが、ハウスメーカー各社の本業は戸建て住宅の開発と販売です。

今回は米国市場について、まとめましたが、米国に次ぐ市場をもつオーストラリアや、経済成長、人口増加が著しい東南アジアなど、これから成長していく市場が海外に存在しています。国内では地域密着展開をしっかりと維持しながら、総合建設業へ舵をとる大手ハウスメーカーは、同時に海外市場を重視して、グローバルな人材の採用と育成にますます注力をしていくことでしょう。

就活生の皆さんは、将来を見据えるためにも、海外事業に着眼点をおいて、業界・企業研究を進めていきましょう。

 

(本記事は総合資格naviライター kouju64が構成しました。)