電力業界の基礎知識
電力業界の現況(2024)
ロシアによるウクライナ侵略で高騰した燃料費は、2022年をピークに下落基調となっていますが、高止まりの水準は続いています。大手電力会社10社のうち、7社は2023年6月に料金値上げを開始しました。また、2024年6月までは物価高対策で政府が補助金を出していましたが、補助金が終了した後は、段階的な値上げが顕在化しています。
2024年3月期決算では、値上げや資源価格下落の効果で、関西電力など8社が最高益を記録しましたが、2025年3月期は値上げ効果がなくなり、大幅減益となる見通しを示しています。
東日本大震災後に原発再稼働が遅れており、国内発電事業の過半を火力発電所に頼っているためですが、2024年11月、東北電力女川原発2号機(宮城県)が再稼働となり、中国電力島根原発2号機(松江市)が12月下旬に再稼働が決定しました。
一方、日本原子力発電敦賀原発2号機(福井県)について、原子力規制委員会は新規制基準に適合しないとして、再稼働を認めないことを決定しました。
電力自由化以降の電力業界地図
「電力自由化」は2016年4月から
電力販売は、永らく各地域の一般電気事業者(電力会社10社)が独占していましたが、2016年4月から、家庭・小規模事業所向けの電気販売が自由化されました。
これに先立ち、経済産業省では、2015年8月3日から、小売電気事業を営もうとする者の事前登録の申請受付を開始しました。
電力自由化により「新電力」が生まれた
電力自由化以前は、地域電力大手10社の他に50kW以上のいわゆる大口需要家に電気を供給している事業者を「特定規模電気事業者 (Power Producer and Supplier:PPS)」と称していましたが、電力自由化以降は経済産業省が特定規模電気事業者を新電力に名称を変えました。
従来は地域電力大手10社の送電網を借りて、大口需要家のみに売電を行っていた特定規模電気事業者でしたが、電力自由化以降は新電力として一般消費者にも小売りが可能となり、地域電力大手10社・新電力ともに並列の小売電気事業者となりました。
さらにガス供給会社や商社、通信系をはじめとして、小売電気事業への参入が進み、2022年4月現在では、752事業者が登録をしている状況です。※
※出所:2022年4月6日時点の小売電気事業者登録数(資源エネルギー庁)
地域電力大手10社ランキングと企業概要
下図は地域電力大手10社の売上高順ランキングです。
各社概要は次の通りです。
■東京電力ホールディングス
1951年に設立された東京電力株式会社が、電力自由化と、それに伴う発送電分離に対応するため、持株会社体制へ移行して社名変更したものです。
略称として「東電」、「東電HD」、英文表記の頭文字からTEPCOが用いられています。
東日本大震災の後処理で、2011年11月以降、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(実質は日本国政府)より、毎月数百億から数千億円規模の資金援助を受けており、2021年度末現在で累計10兆2282億円に達しています。同社は機構からの交付資金を特別利益として会計処理しており、交付された資金と同額を特別損失として賠償金に充てており、実質は国有化している現状です。
持株会社移行後の体制では、燃料・火力発電事業は「東京電力フュエル&パワー株式会社」、送配電事業は「東京電力パワーグリッド株式会社」、小売電気事業は「東京電力エナジーパートナー株式会社」がそれぞれ承継しています。
また2019年10月に再生可能エネルギー発電及び関連事業を「東京電力リニューアブルパワー株式会社」に承継しています。
■関西電力
1951年設立。電気販売量で東京電力エナジーパートナーに次ぐ日本国内第2位。近畿地方や関東地方などで電力小売事業や発電事業を行っており、略称は「関電(かんでん)」、KEPCOを使用します。
福井県に建設されている美浜原発3号機、大飯3号・4号機、高浜3号・4号機など、最も原発再稼働が進んでいます。また火力発電のほか、新発電(太陽光、風力)も積極的に進めています。
■中部電力
1951年(昭和26年)5月1日 – 電気事業再編成令に基づき中部配電と日本発送電の出資によって発電・送電・配電一貫経営の電力会社として名古屋市に設立。
愛知県、長野県、岐阜県(一部を除く)、三重県(一部を除く)、静岡県(富士川以西)、東京電力、関西電力エリアなどで電力小売事業や、発電事業を行なっています。
196箇所の水力発電所を保有し、火力発電所はJERAに継承しており、自社保有していません。静岡県御前崎に浜岡原発を保有しますが非稼働となっています。
送配電事業を「中部電力パワーグリッド株式会社」へ、小売り事業を「中部電力ミライズ株式会社」へ分社承継しています。略称は「中電(ちゅうでん)」。
■東北電力
1942年東北配電として創業。1951年、電気事業再編成令により東北配電と日本発送電を再編し東北電力株式会社を設立。宮城県仙台市に本社を置き、東北地方、新潟、関東地方で電力小売事業や発電事業等を行っています。
東日本大震災以降、保有する女川原発(宮城県石巻)、東通原発(青森県東通村)が非稼働となっていましたが、2024年11月、女川原発2号機が再稼働となりました。
■九州電力
1891年創業。1951年電気事業再編成に伴い日本発送電・九州配電を再編し九州電力株式会社設立。福岡市に本社を置き、略称は「九電(きゅうでん)」。
原発は玄海原発(佐賀県)3号・4号機、川内原発(鹿児島県)1号・2号機が再稼働済み。関連会社は、九州全域の送配電事業者として、「九州電力送配電株式会社」と、再生可能エネルギー発電と小売り事業を担う「九電みらいエナジー株式会社」があります。その他にグループ会社は多く、「九電グループ」として数十社があります。
■中国電力
1942年中国送配電として創業。1951年、日本発送電中国支社と中国送配電の合併により、中国電力株式会社を設立。山口県、岡山県倉敷ほか火力発電比率が高く、原発は島根原発(島根県松江市、非稼働)のみ。上関原発(山口県)を計画中です。
地域での略称は「中電(ちゅうでん)」ですが、業界3位の中部電力と同じであり、全国では中国電と呼ばれるほか、近年は企業ブランドとして「EnerGia」(エネルギア:ラテン語でエネルギーの意)を前面に出しています。
■北海道電力
札幌市に本社を置く電力会社。略称は「ほくでん」、「北電(ほくでん)」または、HEPCO(ヘプコ)。1942年北海道配電として開設。1951年、電気事業再編成令により、日本発送電札幌支店と北海道配電が統合される形で、北海道電力株式会社が設立されました。現状は、火力発電中心となっており、新たにLNG火力発電所の石狩湾新港発電所(小樽市)2号-3号機を計画中。原発は泊原発を保有しますが、1号から3号機まで全機点検中で非稼働となっています。
■北陸電力
富山県富山市に本店を置く電力会社。略称は地元北陸地区においては「北電(ほくでん)」ですが、全国的には北海道電力との区別のため「陸電(りくでん)」と略されます。山岳地帯に立地する地理的環境により、水力発電比率が高く、電力料金の安さが強みとなっています。原発は志賀原発(石川県羽咋市)のみで、非稼働となっています。
■四国電力
香川県高松市に本店を置く電力会社。略称は「四電(よんでん)」。1951年、四国配電と日本発送電四国支店が合併して、四国電力株式会社を設立。四国地方全域と関東地方や近畿地方などで電力小売事業や、発電事業を行っています。
発電所は、火力発電、原子力発電(伊方発電所)、再生可能エネルギー(水力発電・太陽光発電・風力発電・バイオマス発電)を組み合わせています。
伊方原発(愛媛県)はかつて、3つの発電機で四国の電力供給の4割を担っていましたが、2023年9月現在、3号機のみの稼働となっています。
■沖縄電力
沖縄県浦添市に本店を置く電力会社兼、一般送配電事業者。1972年5月、沖縄振興開発特別措置法に基づき、琉球電力公社の全発送電部門と一部の配電部門を承継し、日本政府と沖縄県の出資する特殊法人として発足しました。1988年10月に沖縄振興開発特別措置法に基づく特殊法人から民営の株式会社に移行しました。
発電設備のほとんどは火力であり、石油および天然ガス価格の上昇の影響を受けやすい事業構造となっています。原発は保有していません。
発電事業者2社 JERAとJパワー
国内に2社存在する発電事業者は、多くの発電施設を保有運営しており、発電した電力は小売りではなく、一般小売事業者に卸売りをしています。
■JERA
株式会社JERA(ジェラ)は、エネルギー事業を営む日本の株式会社です。
2015年4月30日、東京電力フュエル&パワーと中部電力が50%ずつ出資して設立しました。燃料の上流開発・調達・トレーディング・輸送から、火力発電所の建設・運営までを手掛けるエネルギー企業です。日本国内の火力発電・ガス事業が中心で、発電した電気は小売電気事業者(東京電力エナジーパートナー、中部電力ミライズ等)に卸売りしています。液化天然ガス (LNG) の取扱量は世界最大級となります。
JERAという社名は、Japan(日本)の頭文字、energy(エネルギー)の頭文字にera(時代)という語を組み合わせたものであり、「日本のエネルギーを新しい時代へ(Japan’s Energy for a new eRA)」という意味が込められています。
■Jパワー(電源開発株式会社)
電源開発株式会社は、東京都中央区に本店を置く電力会社(発電事業者、送電事業者)で、愛称としてJ-POWER(ジェイパワー)が使われています。
太平洋戦争の日本敗戦後、GHQの指示で作られた過度経済力集中排除法の指定を受け日本発送電が解体され、地域電力会社に分割されました。
しかし分割されたばかりの地域電力会社は資本的に非常に貧弱で、復興のために必要となる電力を満足に供給できず、発電所新設の投資もままならない状態でした。
そのため、国内電力需要の増加に対応して制定された電源開発促進法により、1952年9月16日に、国の特殊会社として設立されました(資本構成は66.69 %を大蔵大臣(のちに財務大臣)、残りを9電力会社が出資)。
1997年、特殊法人合理化の中で5ヵ年程度の準備期間を置いた後に民営化することが閣議決定され、2003年に電源開発促進法を廃止。2004年10月6日に東京証券取引所第1部に上場し、電力会社及び政府出資の民営化ファンドの保有株式の全てを売却しました。また合わせて愛称を「でんぱつ」から「J-POWER(ジェイパワー)」に変更しました。石炭火力では国内2位、タイ・米国など海外でも発電事業を拡大しています。
新電力大手にはどのような事業者があるか
2016年の電力自由化以降、大手から中小まで多くが新電力事業者に参入しましたが、販売量が多い事業者ランキングは下図の通りです。
電力会社の新卒採用と職種(東京電力HD採用情報から)
電力会社の新卒採用は、各企業で応募職種に多少差異はありますが、近年は、発電・送配電・小売り・再エネ等で分社化しているため、グループ採用を実施している企業が多くなっています。
建設系学部からの入社は、本体となる発電事業者か送配電事業者の技術職(建築・土木)に配属となることが多いです。
志望企業の応募要項は個別に確認いただくものとして、本記事では東京電力HDの採用情報をもとに建築・土木職の職務と選考プロセスについてまとめています。
電力会社は地域ごとに設立されていますが、他インフラ系と同様に大規模企業で、社内は多数部署で構成され、多くの業務があります。電力会社では発電所や変電所など保有施設の保全に加えて、保有不動産の維持管理、新築・改修などが多く発生します。そこで社内の建設部門やグループ会社のエンジニアリング部門などが建設系技術者の働き場所になります。インハウスの設計者は、基本計画や設計監修、工事監理などの役割を担い、外部の設計事務所や建設業など委託先企業と協力して進めるプロジェクトを管理することになります。
■東京電力HDが求める人材像
以下、引用です。
「東京電力は、人を「人財」と呼び、「人を財産」と考えています。人々の生活を支える上で欠かすことができない、ライフラインである電力。
これを安定的に供給し続けるために、人財育成について3本の柱を宣言しています。
・仕事こそ人を育てる(OJT)
・研修、訓練(OFF-JT)
・自己啓発
この3つの柱を持って、長期的な人財育成を計画的に実施しています。」
※引用:東京電力ホールディングス採用情報ホームページ
電力の安定供給という貢献性の高い事業を担う電力会社は、将来に向けて多くの課題を抱えてはいますが、それだけに大きなやりがいがある仕事に取り組める職場です。また計画的に育成・研修に取り組むことができ、ワークライフバランスや個人の希望、適性を重視した企業風土のもとで、インハウスエンジニアとして設計や研究開発にじっくり取り組める職場となる点が最大の魅力といえるでしょう。
(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)
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