
【建設業の基礎知識】2025【1】なぜ木造マンションは急増しているのか?
中高層マンションといえば、これまでの主流は「鉄筋コンクリート造」ですが、近年になって、建物の主要構造に木材を使用した「木造マンション」の新築が相次いでいます。
いまなぜ「木造」なのか? 耐震・耐火などの安全性は補完されているのか?
そして今後の市場流通はどうなるのか?これらの点について解説します。
木造マンションが次第に急増中!
近年、木造建築の技術が大幅に向上して、RC造に近い耐久性を持つ「CLT(Cross Laminated Timber・直交集成材)」が普及しています。まずは、この建材の開発と普及によって、中高層木造マンションの建築が可能となったことが木造マンション急増の大きな理由となっているといってよいでしょう。
CLTの利用は近年、世界各国でも急速な伸びを見せています。特に、木材特有の断熱性と壁式構造の特性をいかして、戸建て住宅の他、中層建築物の共同住宅、高齢者福祉施設の居住部分、ホテルの客室などに用いられています。
日本では2013年12月に製造規格となるJAS(日本農林規格)が制定され、2016年4月にCLT関連の建築基準法告示が公布・施行されました。
これらにより、CLTは一般利用がスタートしていますが、活用事例が増えるにつれて、その優位性ともいえる特徴が、施工業者、発注者、利用者に次第に認知されるようになっています。
CLTの代表的な特徴とは?
CLTは構造躯体として建物を支えると共に、従来の木材と異なり、断熱性や遮炎性、遮熱性、遮音性などの複合的な効果も期待できる建材です。工場生産されるため、品質が安定しており、RC造に劣ることのない大空間を設計することも可能となっています。
また、工場内で一部の材料を組み立ててから現場に搬入するプレハブ化による施工工期短縮が期待でき、接合具がシンプルなので熟練工でなくとも施工が可能となります。RC造などと比べた場合に各部材が軽量となることも大きな魅力です。
木材は可燃性があるため、火災リスクがRC造などと比べて高いとされてきました。そのため木造マンションを建設するには、建築基準法に基づき、防火地域や準防火地域の条件を満たす必要があります。
そこで、耐火性能の向上に向けて、CLTなどの加工材に石膏ボードで耐火被覆を施したり、火災時の延焼を防いだりする設計が進んできました。これにより、耐火建築物として認められる木造マンションが増えています。
鉄は550℃を超えると強度が一気に低下する一方で、木は火に焙られても、表面が炭化することで火の進行を遅らせ、強度低下を抑えることができるのです。CLT利用の耐力壁では、不燃材の石膏ボードで被膜することで、木造部分の1時間耐火構造を実現し、屋内火災時の入居者の安全を確保できるようになりました。
木材は成長過程で大気中の二酸化炭素を吸収し、炭素を固定化する特性があります。そのため木造建築物は、カーボンニュートラルに貢献できる方法として評価されています。さらに木造建築では製造や施工時のエネルギー消費が少なく、コンクリート造の建築に比べてCO2排出量を削減できるのもメリットです。これにより、持続可能な社会の実現に役立ちます。
国が施策として、SDGsへの取り組みや国産材の積極的な活用を後押ししていることも中高層木造マンションの普及に結びついています。
しかし何よりも木材がもつ、自然で柔らかく、暖かみを感じさせる雰囲気や、調湿効果やリラックス効果など快適性が高く、身体、精神の健康に有益な効果が期待できることが、実際の活用促進に結びついているといえるでしょう。
木造マンションの耐用年数とは?
一般的な木造建築物は減価償却上の法定耐用年数が「22年」です。しかしメーカーによっては、独自に監査法人の承認を得ることで「47年」を実現したケースも見られます。これはRC造と同等レベルであり、長い耐用年数を確保することで、今後はますます大型木造マンションの広がりが予想されます。
出所:三井ホーム「モクシオンの特徴」に記載を参考に筆者が作成
このように木造マンションは、持続可能な資材の使用や建築技術の向上により、従来までの法定耐用年数を大きく超える長寿命が期待される建築形態となっているのです。
「木造マンション」の表記が可能となったこと
従来、木造賃貸住宅は「木造アパート」という表記しかできませんでした。しかし2021年以降は、下記の条件を満たすことで「木造マンション」と表記できるようになっています。
出所:不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)の記載を参考に筆者にて作成
三井ホームの「木造マンション」への取組(MOXION(モクシオン))
三井ホームが木造賃貸マンション「MOCXION(モクシオン)」の第1号物件として、提供する「モクシオン稲城」が「国土交通省 令和2年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択されました。
「MOCXION(モクシオン)」は、住宅性能表示制度の「劣化対策等級」において、最高ランクの3を取得しており、75年~90年の耐久性を確保しています。
三井ホームは、今後は中層集合住宅へと事業領域を拡大し、地球環境にやさしい木造建築物のさらなる普及に努めていくとしており、全国で施工実績を推進中です。
出所:三井ホーム
住友林業の「木造マンション」への取組(FOREST MAISON GRANDE(フォレストメゾン・グランデ))
住友林業では、2023年11月、賃貸用木造マンション「Forest Maison GRANDE」を発売しました。デザインと性能を両立した木造マンションで、環境への配慮として、ZEH-M Orientedに対応しており、太陽光パネルの再生可能エネルギーを活用して、住戸ごとのゼロエネルギー化も推進しています。建築資材製造時のCO2削減と、構造躯体による炭素固定により、脱炭素社会を目指す世界的な目標達成に貢献する点も大きなポイントです。
また狭小地や変形敷地にも柔軟に対応できる設計力を活かし、土地の価値を最大限に高める賃貸住宅を実現できるのも強みです。
住友林業が独自に開発したビッグフレーム(BF)構法は壁から柱型が出ないため、居室面積が広がって家具などのレイアウトもしやすくなります。
出所:住友林業
まとめ
従来まで、木造賃貸住宅はアパート等の小規模な建築物が主流でしたが、木造建設部材の開発や新構法などの技術力向上によって高層木造建築物も実現しています。
環境負荷を軽減するメリットが大きく、また、近年は防災やセキュリティの観点からも、マンションへの志向性が高まりを見せているため、今後さらに中高層木造マンションが増えていくことは間違いないと予想されます。
(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)