特集【4】デジタル田園都市国家構想の実現に向けた「建築・都市のDX」取組の方向性【知っておきたい建設的常識】

前回、特集【3】では、デジタル田園都市国家構想について解説いたしました。デジタル田園都市国家構想の実現に向けた取組は、広範な分野に対応することが必要となり、国、地方公共団体、民間企業、教育機関、住民が連携してともに課題実現に向き合い、よりよい社会づくりを進めていく必要があるとされています。

建設系の動きとして、国土交通省も「新たな国土形成計画(全国計画)」を決定し、「建築・都市のDX」の取組として進行中です。

今回は予告通り、この「建築・都市のDX」について解説したいと思います。

注)本記事は、2023年3月制定「建築・都市のDX」から2024年6月改訂情報をもとに構成しています。

※特集【3】デジタル田園都市国家構想の現在【知っておきたい建設的常識】を未読の方は、まず先に「こちら」を確認の上、お進みください。

「建築・都市のDX」とは

「建築・都市のDX」とは、建築、都市、不動産分野のDXに関する、国土交通省の施策を統合することにより、高精細なデジタルツインやデータ連携をしやすい環境を構築し、EBPM※に基づく、政策課題の解決や新ビジネスの創出を図る取組です。

例えば、オープンデータやXR※の活用による不動産取引や都市開発の効率化、屋内外シームレスな人流シミュレーションを踏まえた防災まちづくりの推進、空き家・所有者不明土地の早期把握と合理的な不動産価格査定による空き家・所有者不明土地対策等、多様なユースケースが想定されています。

※EBPM:EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)とは、政策立案や意思決定において、データや科学的な根拠を活用するアプローチを意味する。

※XR:XR(クロスリアリティ)とは、現実世界と仮想世界を融合させて新しい体験を創造する技術の総称です。

建築・都市のDXの取組イメージ

下図は、「建築・都市のDX」の取組イメージを図示したものです。

 

出典:国土交通省(出典元をリンクしています)

 

「建築・都市のDX」は、次の4つの取組を一体的に推進するものとして策定されています。

(1)3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化「PLATEAU」の推進(都市局)

(2)建物の3次元データBIMを活用した建築確認(住宅局)

(3)不動産を一意に特定する不動産IDの整備(不動産・建設経済局)

(4)筆界データ※のオープン化に資する地籍整備の推進(政策統括官)

※筆界:筆界とは、土地が登記されたときに定められた土地の範囲を示す線で、公法上の境界です。

4つの取組について、以下のとおり解説します。

(1)PLATEAUとは

PLATEAU(プラトー)とは2020年12月に発足し、国土交通省が主導で推進する日本全国の都市を3Dモデル化するという都市デジタルツイン実現プロジェクトです。

さまざまなプレイヤーと連携して都市の建物や街路の3次元形状をCGモデルで再現することにより、まちづくりのDXを進めます。

PLATEAUは、地理空間データを活用するプラットフォームで、名称や用途、建設年などの情報を付与したオープンデータとして提供されています。

これは、誰もが都市データを自由に取得して活用できるのが特徴です。

さまざまな分野でPLATEAUを活用した新たなサービスやイノベーションの創出が進んでいます。

当初、PLATEAUは全国56都市の都市空間を3Dモデル化して再現していましたが、現在は、2027年度までに約500都市に拡大し、将来的には全国整備を目指して整備範囲の拡大を継続する計画です。

PLATEAUでは、GIS(Geographic Information System:地理情報システム)を利用することで、対象となる土地データや建築物データと3D都市データを重ね合わせて表示できます。それにより、位置情報を含むデータを空間的な特性を用いて分析することが可能です。

具体的な例としては「高さが特定のメートル数以上のビルを見つける」「特定の地点から建物などに遮られずに見える範囲を調べる」といったケースが挙げられます。

PLATEAUの3D都市モデルは、CityGML形式で提供されているのが特徴です。CityGMLは、3D都市モデルを詳細な表現レベルに応じて記述するためのXMLベースのデータ形式で、建築物の形状や詳細度を表現するために使用されます。

2024年4月に公開された「PLATEAU VIEW 3.0」とは、PLATEAUのデータをウェブ上で可視化するためのブラウザベースのWebGISです。

作図機能やGoogle Street Viewとの連携機能、太陽光シミュレーション、ヒートマップ表現などが利用できます。

本システムは、3D都市モデルデータやGISデータを軽量かつ高速に扱え、グラフィックボードの高速な計算・描画機能を活用している点が特徴です。

(2)建築BIMとは

建築BIM((ビルディング インフォメーション モデリング)とは、デジタル空間で「建築物を構築する」システムです。

3D形状だけでなく、材料やコストなどの情報が管理されていて従来の「2D図面」に代えて、建築生産・維持管理の場面で建築BIMを活用することにより情報の「見える化」につながります。

高度なシミュレーションで建築設計を最適化することができるため「業務の効率化」を図ることができ、また、一元管理された情報を有効活用することによって「建築物の質の向上」が図られます。

社会全体で建築データが活用される未来を目指すため、建築BIMの整備が急速に進行中です。

(3)不動産IDとは

「不動産ID」とは、不動産を即座に特定できる17ケタの番号のことです。すでに存在している13ケタの不動産登記番号を基礎に、4ケタの特定コードを加えて構成されます。

すでに付与されている13ケタのみで対象の不動産を特定できる場合(土地や一戸建て、区分所有建物の専有部)は4ケタの特定コードを「0000」とします。

一方、13ケタだけでは特定できない対象(賃貸物件の各部屋やオフィスの各フロア)については、ルールに基づいた方法で4ケタの数字を割り当てるという仕組みです。

たとえば、オフィスや店舗であれば13ケタの不動産番号に2ケタの階層コード、2ケタの階数コードを加えることで、詳細なフロアが特定できるようになります。

このように、その不動産の建物だけでなく階数や部屋までをコードのみで表現できるようにすることが、不動産IDの基本的な目的です。

全国の不動産それぞれに番号を付与し、不動産IDを連携キーとして用いることにより、各不動産情報の名寄せや連携をスムーズに行えるようになります。

不動産IDが連携キーとして活用されることで、BIM・PLATEAUと連携した「建築・都市のDX」の推進が期待されています。

(4)地理空間情報の整備とは

地理空間情報とは、「いつ・どこで」といった位置や時間等の関連情報から形成される情報で、位置を有する財である不動産や国土の把握・分析と親和性があります。

特に、国土に関する基礎的な情報を全国単位のGISデータとしてオープン化する国土数値情報は、EBPMに基づく行政課題の源泉になるとともに、各種計画策定、ビジネス、学術研究等、産学官で活用されており、より一層の充実化に取り組んでいます。

また、迅速な復旧・復興や円滑なまちづくり等に不可欠な地籍調査を推進し、土地の境界の明確化を図ることで、重要な地理空間情報の1つとして土地の基礎的なデータの整備を行っています。

他にも、不動産に関するオープンデータを利用者のニーズに応じて地図上に表示する「不動産情報ライブラリ」を2024年4月1日に公開し、円滑な不動産取引の促進を図っています。

 

出所:国土交通省

「建築・都市のDX」により、第一に、高精細なデジタルツインを構築します。「PLATEAU」とBIMを連携させた屋内外シームレスな都市の3次元デジタルツインにおいて、各不動産に不動産IDを付与することにより、当該不動産に関する多様なデータを紐付けることができます。

さらに、このデジタルツインに筆界データを導入することにより、筆界単位で管理されているデータも連携します。

当該デジタルツイン上において、3次元防災シミュレーション等の高度なシミュレーションを行うことにより、その結果を現実世界のインフラ整備等に反映させることが可能となります。

第二に、建築・都市分野の多様なデータを連携するための環境を構築します。「PLATEAU」等の個別の取組が進むことにより、例えば「PLATEAU」が有する建物名称、建築年、都市計画に関する情報等、建築・都市分野の多様なデータが蓄積されます。

これらのデータを機械判読可能な形で連携することにより、AI分析や統計分析を行い、意思決定に資するインテリジェンスを得ることができます。

出典:国土交通省「「建築・都市のDX」の具体的な取組

「建築・都市のDX」ロードマップ

「建築・都市のDX」では、2025年から建築・都市分野の多様なデータの連携を促進し、2028年以降、デジタルツインの社会実装を目指していく計画となっています。

以下は、国土交通省が明示したロードマップとなります。

出典:国土交通省(出典元をリンクしています)

 

(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)